【怪しい稲田血祭報道 :内閣総辞職が当たり前ではないか 】

内閣改造まで1週間。これまで居直ってきた稲田防衛相が、ようやく辞任だ。28日、南スーダンに派遣されていた自衛隊の日報問題で、特別防衛監察の結果が出るのに合わせ、「防衛省内が混乱した責任」を取って辞めることになった。

(辞任会見でもこの表情)

「首相が本来、取るべきだった更迭という手段を使わず、本人の辞任という形でゴマカしたのは、首相にとっても稲田氏にとっても、最も傷が浅い方法を模索した結果でしょう。安倍首相は自分と思想が近く、可愛がっている稲田氏を重要ポストの防衛相に就けたものの、やはり彼女には荷が重かった。失態や問題発言が相次ぎ、不適格は明らかでした。国会で虚偽答弁を繰り返し、都議選の応援で自衛隊を政治利用するような発言をしたりと、何度も罷免すべき場面はあったのですが、更迭すれば、首相の任命責任に発展してしまう。それで、来月の内閣改造に合わせて交代させるつもりで引っ張ってきたのですが、加計学園問題などで安倍首相自身が追い込まれ、かばいきれなくなってきた。結局はトカゲのシッポ切りです」(九大名誉教授・斎藤文男氏=憲法

陸自が「廃棄した」としていた昨年7月の日報が12月に統合幕僚監部で発見されたことになっているが、陸自内にも電子データとして保管されていたことが今年1月に判明。その事実を公表するかどうか、防衛省最高幹部による緊急会議が2月15日に行われた。その会議に稲田も出席し、日報を非公表とする方針を了承したとされる。2日前の13日にも稲田が陸幕副長など幹部数人から報告を受けていたことを示す手書きのメモも流出。稲田が「けしからん、明日なんて答えよう」などと発言したとの記述があり、特別防衛監察の結果がどうであろうと、稲田の関与を否定できない状況になっていた。

■姑息な疑惑隠しを許すのか

 来週、衆参両院で日報問題に関する閉会中審査が予定されており、稲田が大臣として出席すれば政権が火だるまになるのは必至。防衛省の事務方トップである黒江哲郎事務次官と、陸自トップの岡部俊哉陸上幕僚長が辞任するのに、稲田だけ無傷では組織が持たないという判断も働いただろう。

折しも、自民党今井絵理子参院議員の不倫疑惑が週刊誌に報じられ、森友学園の籠池前理事長夫妻は地検の任意聴取、民進党蓮舫代表が辞任と、ニュースが盛りだくさんのタイミングに稲田辞任をぶつければ、インパクトが薄まるという政治判断もあったかもしれない。

だが、日報隠蔽に稲田が関わっていたのかどうか、真相がウヤムヤなまま辞任で幕引きをはかられてはたまらない。姑息な疑惑隠しを許すわけにはいかないのだ。稲田本人はもちろん、何が起きても「問題ない」と言い続けた菅官房長官、度重なる罷免要求を「(稲田には)しっかりと責任を果たしてもらいたい」とハネつけてきた安倍首相にも、これまでかばい続けてきたのに、なぜ今になって、間近に迫った内閣改造を待たずに辞めさせるのか、しっかり説明責任を果たしてもらう必要がある。

 ついでに言えば、北朝鮮のミサイル警戒の真っただ中に、防衛省トップが辞めるというのもフザけた話だ。政府広報CMまで流して、さんざん北の脅威をあおってきたのは何だったのか。

(危険任務の実績づくり)

「そもそも、なぜ最初に日報を隠したのか。自衛隊を派遣した南スーダンが戦闘状態にあることが国民に知られてはマズイからでしょう。だから、日報に『戦闘』と記されていたことを国会で問われた稲田大臣も『戦闘ではなく武力衝突』と詭弁を弄していた。戦闘地域と認めれば、自衛隊のPKO派遣が憲法違反になってしまうからです。自衛隊の日報の隠蔽を首相も了承していたかは現時点で不明ですが、世界中に自衛隊を派遣し、憲法違反の武力行使を既成事実化したいがために、PKO5原則もなし崩しにしてしまったのが安倍首相です。そのために憲法9条も改正しようともくろんでいる。日報隠蔽問題の発端が、安倍政権のよこしまな思惑にあることは間違いありません」(斎藤文男氏=前出)

■稲田は今年2月の国会で、「法的な意味での戦闘行為はなかった」と、こう強弁していた。

「(戦闘行為が)行われていたとすれば、それは憲法9条上の問題になりますよね。だから、戦闘行為ではないということになぜ意味があるかというと、憲法9条の問題に関わるということで、その意味において、戦闘行為ではないということでございます」

南スーダンでは大統領派と反政府勢力との間で大規模な銃撃戦が発生し、数百人が死亡するなど内戦状態が続いていたが、それを「戦闘行為」と認めてしまうと、憲法違反になるので「武力衝突」と言い換えている。そう開き直ったのだ。

ジャーナリストの布施祐仁氏が日報の情報公開請求をしたのが昨年9月。ちょうど、前年に安保法の成立を強行した安倍政権が、南スーダンPKO部隊に新任務の駆けつけ警護を付与するタイミングを探っていた頃だ。国会では、憲法との整合性なども含め、その是非が議論されていた。安倍は「南スーダンは永田町よりは危険」とナメた答弁をし、「戦闘は起こっていない」などと詭弁を弄し続けた。そして、昨年11月に駆けつけ警護が初めて付与された部隊が出発したのだ。

■個人の資質の問題だけではない

 そういう時期に情報公開請求された日報が「不開示」にされ、後になって“発見”されたら、そこには「戦闘」の文字がハッキリと記載されていた。これはもう犯罪的ではないか。不都合な情報を隠蔽して新任務を付与し、戦争法の実績づくりを急いだとしか考えられない。

これだけで、本来ならば即刻、内閣総辞職ものだ。それを稲田の「監督責任」にスリ替え、引責辞任などというきれいごとでフタをさせるわけにはいかないのである。

 ところが、今回の辞任騒動で、メディアが論じるのは稲田個人の問題ばかり。もちろん、稲田は問題だらけで、大臣どころか政治家の資格もないような人物だが、メディアは意図的に「個人の資質」に矮小化してはいないか?

 こうなると、ケチョンケチョンの血祭り報道も怪しいものだ。5月末に自衛隊南スーダンから撤収。その直後から、安倍応援団の産経新聞が稲田批判の急先鋒に転じたのも、稲田と防衛省にすべておっかぶせて安倍を守るための方便に見えてくる。

「日報問題は、防衛省のガバナンスというだけでなく、政権全体の問題です。加計学園問題とも共通していて、安倍首相にとって都合の悪い書類は隠蔽する、記憶もなくす。官邸の意向をくんで、あるものを『ない』と言い張るのは、官僚だってツライと思いますよ。行政が歪められ、国家全体のガバナンスがおかしくなっているのです。これは、稲田氏の引責辞任で終わらせていい話ではない。ここまで行政の混乱を招いた責任は政権トップにある。自民党議員の中にも『この際、総理が稲田さんやシンパを連れて離党し、ネトウヨ新党でもつくればいいのに』と言う人までいます。マトモな政治を取り戻すには、もう内閣総辞職しかありません。内閣改造なんて、本当にやれるのでしょうか。いまの安倍政権は、将棋で言えば、誰が見ても詰んでいるのに、投了しないで持ち時間を空費しているような状態です」(政治ジャーナリスト・山田厚俊氏)

 レームダック政権がこれ以上、生き永らえても、政治空白が続くだけ。それは、国民にとって不幸なことだ。

※転載記事元 日刊ゲンダイDIGITAL 

https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/210368/6